秋田禎信先生書き下ろしミニ小説
「ライブラ年末大掃除」

年の瀬と言うこともあるので、結局誰かが言い出すことではあったのだ。

我慢の限界を超えた時点で。

つまり未整理書類と資料の山に埋もれたオフィスでブチ切れたスティーブンが号令役になったのは、それほど意外なことではなかった。

「大掃除をしようじゃないか」

「はァ? そんなん必要っすか?」

と、平然と疑問の声をあげたザップもすごいといえばすごい。

「まあ、必要ですよね……」

レオは素直に同意せざるを得なかった。雑に散らかりまくったオフィスを見渡して。部屋にはメンバーのほとんどが揃っているというのに、うず高く積まれた紙束のせいで隠れてしまっている者もいる。

「なんでこんなに物が増えてるんですか?」

というレオの問いにスティーブンが即答した。

「君らが片づけないからだ」

「いや、でも掃除ってのは俺らの仕事じゃないっしょ。切った張った分の給料しかもらってねえっすよ」

不平を重ねたのはザップだ。スティーブンは淡々と応じる。

「その業務を厚意でやってくださっていたギルベルトさんは先々週から姪御さんの出産手伝いで不在だ」

「無事産まれてよかったっすね」

「そうだな。順調なようで、年が明ければ帰ってくる」

「あ、じゃあすぐ片付くってことっすよね。いやー、よかったよかった」

能天気に一人合点するザップに、スティーブンは長々とため息した。

「留守中のことを不安がるギルベルトさんに、我々はこう言ったわけだ。なにも身の回りの掃除くらいできないわけじゃない、どうぞ安心して行ってきてくださいと」

「なんでそんなこと言ったんすかねえ」

「まさかたった三日で足の踏み場もない有様になるとは思わなかったが。五日目にはアニラが雪崩の下に消えた。ずっとクラウスや僕が気づいたところから片づけ続けたが、圧倒的に散らかるほうが早い。もはや魔術的だ。高速無限分裂生物に取り囲まれた時ですらこうまで追いつめられなかった」

「ギルベルトさんどうやって毎日カタしてたんすかねえ。ブルドーザーでも使ってたのかな」

あたりを見回すザップは飽くまで他人事を貫くつもりのようだが。

ツェッドは気まずそうに弁解した。

「すみません。外回りが続いたので……」

「この十日間、僕らだって掃除以外にやることがなかったわけじゃないんだ。そもそも全員で負担すべきことだろう。まさか嫌だとは言わないだろうな」

と。

その視界の隅をすり抜けるように、大股に進む影がある。

それが出口にとどく一歩手前でスティーブンが釘を刺した。

「もちろん、ここにいる全員で。誰ひとり。例外なしだ」

「チッ……」

舌打ちしてK・Kが足を止める。

冷たい眼差しでスティーブンは告げた――

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